「電源の損失を半分に」。異なる材料の長所を活かすパワー半導体で、AI時代の電力課題に挑む「ヘテロスタックス」
UntroDインパクトストーリー|株式会社ヘテロスタックス 代表取締役CEO 佐々木 公平
AIがインフラになりつつあるいま、データセンターの電力消費が急増しています。世界のデータセンターが使う電気は、2030年には日本一国の年間消費量を上回る規模になる見通しです。その電気は使われるまでに何度も形を変え、変換のたびに一部が熱として失われます。この変換を担う部品が、パワー半導体です。
損失を減らすために、パワー半導体はこれまで、シリコンからSiC(炭化ケイ素)、酸化ガリウムへと材料の置き換えが検討されてきました。しかし、新しい材料には長所とともに短所もあり、置き換えるたびにどこかの性能が下がる。その堂々巡りが20年続いてきたと、株式会社ヘテロスタックス代表取締役CEOの佐々木公平さんは言います。
酸化ガリウムを17年追いかけ、第一人者となった佐々木さんが選んだのは、材料を置き換えるのではなく、異なる材料を組み合わせ、それぞれの長所を活かす道です。その先に見込むのは、損失の半減。世界全体で、年間数千億円規模の電気の削減です。
シリコンとSiCを組み合わせるという着想そのものは、30年前、この分野の研究者が特許に書き残していました。けれど、それを形にする技術はなく、検討はそこで止まっていました。なぜ、いまそれを形にでき、しかも既存のシリコンの生産ラインで作れるのか。じっくりと話を聞きました。
株式会社ヘテロスタックス
2025年10月設立。異なる半導体材料を原子のレベルで直接貼り合わせる「異種接合」により、新しい構造のパワー半導体を開発するスタートアップ。シリコンの高い信頼性と低コスト、SiCの高い耐圧性能を一つの素子の中で組み合わせたトランジスタ(電気の流れを高速に入り切りするスイッチ)「SABFET™」とダイオード(電気を一方向にだけ通す弁)「JGSD™」を開発し、AIデータセンター電源や電気自動車、再生可能エネルギーを含む中耐圧領域での社会実装を目指す。代表取締役CEOは佐々木公平氏。
「どうせ一回の人生をかけるなら」
――まずは、ヘテロスタックスがどのような会社なのか、お聞かせいただけますか。
佐々木公平(以下、佐々木):異なる半導体材料を組み合わせて、新しいデバイスをつくる会社です。いま力を注いでいるのは、シリコン(Si)とSiC(炭化ケイ素)を組み合わせた、電気のロスが少ないパワー半導体を社会に出すことです。
――最初のターゲットに、AIデータセンターの電源を選ばれました。市場としての理由と、佐々木さん個人の理由の両方を伺いたいです。
佐々木:AIについては当初、これも何度目かのブームで終わるのではないか、という見方がありました。けれど、いまの流れを見ているとそうはならない。インフラになるのは確実だと思えてきた。パワー半導体を開発してきた者として、ここで貢献しなければいけないという思いが湧いてきました。
社会課題を解決するなら、市場の大きなところに挑まなければ意味がない。ニッチな分野での課題解決も、もちろん誰かが取り組まなければならないのも確かです。ただ、どうせ一回の人生をかけるなら、なるべく多くの人が幸せになることに取り組みたい。データセンターの電源はいま直接的に貢献できる場所だと思いましたし、そこに向けたデバイスをつくりたいと考えて、中耐圧というレンジで構造を完成させました。
※注:パワー半導体は、電気の形を変える部品です。交流を直流に変えたり、電圧を上げ下げしたりする働きを担い、家電から電気自動車、データセンターの電源まで、電気を使う機器のほぼすべてに組み込まれています。扱える電圧の大きさで用途が分かれ、この記事の「中耐圧」は600〜1200ボルトの範囲を指します。電気自動車の駆動系やデータセンターの電源が、ここに含まれます。
――そのデバイスは、私たちの暮らしのどこで使われることになりますか。
佐々木:主な応用先は、いま申し上げた中耐圧の分野です。600〜1200ボルトを扱うところで、AIデータセンター、電気自動車、再生可能エネルギーが含まれます。さらに信頼性の高いデバイスが作れるので、より高い電圧を扱う産業機器や電鉄にも広げられる可能性があると考えています。
いまはプレシードの資金を得て、机上の検討とシミュレーションで確かめてきたデバイスを、実際に動かして示す段階に入ったところです。
損失の半減が、発電所の何基分にもなる
――電気を流したときに熱として失われてしまう分を、トランジスタで60%、ダイオードで50%減らすと掲げておられます。デバイスの損失が減ると、データセンターの電源全体では、どのくらいの違いになるのでしょうか。
佐々木:デバイス単体で損失が半分になる場合、電源システムの損失もおおよそ半分になります。例えば、ハイエンドの電源システムは電源変換効率が96%程度ですので、損失は4%です。この4%の損失を、半分の2%にできる。取り扱っている電力量が莫大なため、それだけで、世界中で年間数千億円規模、発電所の何基分もの電気エネルギーが削減できます。非常に大きな効果です。
――失われた電気は熱になり、その熱を冷やすためにまた電気を使います。損失を減らせば、二重に効いてくるわけですね。数千億円という規模は、どのように見積もられているのでしょうか。
佐々木:そうですね。計算自体は単純な掛け算です。データセンターがいまどれだけ電気を使っているか、そこから5年、10年でどれだけ増えるかは、すでに公表されています。その何%かを減らせれば、そのまま電気代に換算できますから、数千億円規模の削減につながります。
※注:この計算の土台となる公表値として、国際エネルギー機関(IEA)の試算があります。世界のデータセンターの電力消費は2024年に約415テラワット時、世界の電力消費の約1.5%。2030年には約945テラワット時、約3%まで倍増し、日本一国の年間電力消費量をわずかに上回る規模になると見込まれています(IEA『Energy and AI』2025年4月)。
――すでに高い効率に達しているところで、残された損失を、さらに半分にする。そういう仕事なのですね。
佐々木:もちろん、パワー半導体だけではありません。電源回路の制御技術も含めた合わせ技です。そのなかで、AIを使う社会を持続可能なものにすることに、少しでも貢献できればと思っています。
組み合わせるという、もう一つの道
――そもそも、なぜ「異なる材料を組み合わせる」という発想が必要だったのでしょうか。
佐々木:これまでパワー半導体は、シリコン、SiC、酸化ガリウムというように、単一の材料でつくられてきました。ただ、どの材料にも長所と短所があります。シリコンから新しい材料に置き換えると、長所の部分で上がる性能もあれば、実は短所の部分で下がる性能もあります。そのため、結局「やはりシリコンが強い。ただ、シリコンの性能ではもう足りない」という堂々巡りが、この20年続いてきました。
そこを抜け出すために、異なる材料を組み合わせて、それぞれの長所だけを使えないかと考えるようになりました。
――異なる材料を貼り合わせるというのは、素人にはかなり難しそうに聞こえます。これまではどんな方法が試されてきたのでしょうか。
佐々木:まず試されてきたのは、結晶成長です。半導体の基板の上に、別の材料をエピタキシャル成長させる。ただ、これは材料を選びます。二つの材料で熱膨張係数が近く、結晶の構造も同じでなければいけない。組み合わせの選択肢が少ないので、この分野はあまり広がってきませんでした。
※注:エピタキシャル成長は、土台となる結晶の並びを引き継ぎながら、その上に別の材料の層を積み上げていく方法です。両者の結晶構造が異なる場合、品質の高い結晶は得られません。熱膨張係数は、温度が変わったときに材料が伸び縮みする度合いで、材料ごとに決まっています。二つの材料でこの値が離れていると、製造の途中で温度が上下したときに、接した面がずれたり割れたりします。
佐々木:そこに、大阪公立大学の重川先生が進めてこられた直接接合という技術があります。これを応用すれば、材料の物性による縛りがかなり緩み、組み合わせの幅が大きく広がるのではないか。そう提案されている段階でした。
※注:直接接合は、接着剤も中間の層も使わず、二つの材料の表面をきれいにしたうえで、原子のレベルで直接貼り合わせる技術です。重川直輝氏は大阪公立大学の教授で、この分野を長く研究してこられ、ヘテロスタックスの技術顧問を務めています。
佐々木:この技術を用いれば、シリコン本来の良さと、新しい材料の良さを組み合わせられるのではないか。あとは、どうすればデバイスとして成立するか。そこを考えていたときに、ダイオードとトランジスタの構造を思いつきました。
ゲート制御は、シリコンに任せればいい
――佐々木さんは、酸化ガリウムという材料を17年追いかけてこられました。その方が、材料を組み合わせる道に進まれた。この経緯をご自身の言葉でたどっていただけますか。
佐々木:私が酸化ガリウムパワー半導体の研究を始めたのは、2009年頃、当時在籍していた株式会社タムラ製作所でのことです。
その後、2015年に酸化ガリウム事業がカーブアウトされ、株式会社ノベルクリスタルテクノロジーが設立されました。私も同社に転籍して研究開発を続け、結果として17年間、酸化ガリウムに取り組んできました。
最初は、爪の先ほどの小さな結晶を自分でつくり、それを使って酸化ガリウムのダイオードを世界で初めて動かしてみせた。そこから始まっています。
当時はほとんど知られていなかった材料ですが、今では世界中で研究されるようになり、研究人口も千人を超えました。よくここまで来たと思いますし、本当に面白い材料です。酸化ガリウムはこれからも社会実装に向けて進んでいくと思います。
――そのうえで、なぜ単一の材料ではなく、組み合わせるという道を選ばれたのでしょうか。
佐々木:酸化ガリウムは面白い材料ですが、他の半導体材料と同じく長所もあれば短所もあります。酸化ガリウムの場合、p型伝導制御(p型と呼ばれる性質の層を、狙いどおりに作り込むこと)が難しいことが短所の一つです。また、電子移動度(材料のなかでの電子の動きやすさ)がシリコンやSiCに比べて低いことや、バンドギャップが大きすぎるために良好なゲート絶縁膜が存在しないことも挙げられます。これらの短所により、もし酸化ガリウムトランジスタを実現できても、ゲート性能が低い(ゲートでの損失が大きく、信頼性が低い)ということが予想されました。
※注:半導体は、混ぜる元素によって、電気を運ぶ担い手が電子になる「n型」と、電子の抜けた穴(正孔)になる「p型」に作り分けられ、多くのデバイスはこの二つを組み合わせて動きます。トランジスタの「ゲート」は電流の入り切りを指令する部分で、電気の通り道とは「ゲート絶縁膜」という薄い膜で隔てられています。バンドギャップは、電子が動き出すために越えなければならないエネルギーの幅で、ゲート絶縁膜にはこれが半導体より大きい材料が求められます。ここでいう「損失」は、電気が素子を通るときに熱になって失われてしまう分です。この損失が小さいほど、同じ仕事をより少ない電気でこなせます。「信頼性」は、高い電圧や熱を長時間かけ続けても特性が変わらず、壊れないことを指します。
――ゲートの性能の課題は、どのような分野で効いてくるのでしょうか。
佐々木:ゲートでの損失は、高耐圧分野ではあまり気にならないのですが、中耐圧以下の分野ではデバイスの損失に大きな影響が出てきます。そして5年前から考えていたのが、ゲート制御はシリコンに任せればいいのではないか、ということでした。
――その発想は、まず酸化ガリウムで試されたのですね。
佐々木:はい。国のプロジェクトで予算を取り、重川先生にも途中から加わっていただいて研究しました。ところが、やってみるとシリコンと酸化ガリウムは相性がよくない。貼り合わせた面で二つの材料が反応してしまい、狙った構造が保てないのです。3年ほど、億円単位の資金をかけましたが、これは開発をやめようという判断で終わりました。
――3年と、億円単位。それでも、考え方そのものは捨てなかった。
佐々木:面白い考え方だ、という手応えは残っていました。それなら、酸化ガリウム以外の材料も含めて、異種材料を接合したデバイスに道はないのか。そう考えたときに、シリコンとSiCという組み合わせに行き着きました。
酸化ガリウムとは、ぶつからない
――行き着いた先が、意外なほど素朴な組み合わせだったという印象を持ちました。あえてSiCを選ばれた判断には、何が効いたのでしょうか。
佐々木:酸化ガリウムとシリコンの組み合わせでネックになったのは、接合界面での反応に加えて、p型伝導制御ができないことでした。構想していた構造を実現するためには、どうしてもp型制御が必要だったのです。また、SiCはすでに世の中に出回っていて、ウエハが安くなっています。それもあって、今回はシリコンとSiCを選びました。
※注:ウエハは、半導体をつくる土台になる円盤状の基板です。同じ材料でも、数が出て品質が安定するほど価格が下がります。
――コストは、どのあたりに着地する見込みですか。
佐々木:SiC単体や酸化ガリウム単体のデバイスは、つくるときに専用の装置が必要ですが、我々のデバイスは基本的にシリコンと同じプロセスで作れるため、既存のシリコンデバイスの製造設備を活用することができます。また、チップサイズがシリコン単体のデバイスより小さくなりますので、シリコン単体デバイスに迫るコストが狙えると考えています。少なくとも、SiC単体や酸化ガリウム単体に比べれば大幅に安くできる、という見立てです。
――いまも酸化ガリウムに関わり続けておられます。両者はぶつかりませんか。
佐々木:ぶつかりません。酸化ガリウムは、高い電圧を扱う分野でこそ特徴が活きる材料です。私たちのSABFET™とJGSD™が活きるのは、その手前の中耐圧の分野。互いを補い合う関係にあります。
シリコンで十分という分野も、必ず残ります。電圧が低く、安くつくれることが優先される分野は、シリコンでいい。その上の、性能や電圧が求められる部分を置き換えていくのが、私たちの狙いです。
30年前は、作る技術が存在しなかった
――調べていくと、シリコンとSiCを組み合わせるという着想そのものは、1990年代の特許として残っていました。なぜ当時、形にならなかったのでしょうか。
佐々木:パワー半導体研究の第一人者の一人であるバリガ先生が、30年も前に「制御の部分はシリコンに任せればいい」という着想を特許にしています。ただ、その特許に描かれた構造はアイディアレベルであり、実際に作る技術が存在しないものでした。そこで検討が止まっています。
※注:バリガ先生はB. Jayant Baliga氏。パワー半導体の材料の優劣を比べる指標「バリガ性能指数(Baliga’s Figure of Merit)」の名の由来となった研究者です。
佐々木:30年前というと私はまだ中学生でしたので、当時どんな議論があったかは分かりません。ただ、わざわざそのような特許が出たのは、シリコンからSiCに材料を置き換えようとしたけれど課題が大きい、と皆が最初に感じたからだと思います。
なぜ検討が止まったかというと、SiC単体で性能を上げていこうという流れが業界の総意になり、皆がそちらに向かったからです。シリコンとSiCを組み合わせるという発想を思いつく人はたくさんいたと思うのですが、本気で検討した人はほぼおらず、ここまで来ました。
――本気で検討した人は、ほとんどいなかった、と。
佐々木:この10年ほどで、SiC単体の限界が見えてきたこともあり、シリコンとの組み合わせを考え始めた研究者はいるようです。ただ、いずれも構造として完成しておらず、実際につくれる技術にはなっていませんでした。
――失礼を承知で伺います。この分野を代表する先生が着想を書き残しながら、それを作る技術はなかった。その後に取り組んだ研究者も、構造として完成させるには至らなかった。なぜ佐々木さんは、つくれる構造に到達できたのでしょうか。
佐々木:私はSiCの専門家ではなかったので、かえって自由に考えられたのだと思います。異種接合は直接接合でもいいのではないか、と。固定観念がないぶん、最善の選択肢を素直に選べた。それが今回の着想につながりました。
――重川先生や木本先生とは、どういう経緯でつながったのでしょうか。
佐々木:重川先生とは、酸化ガリウムとシリコンの接合のときからのお付き合いです。今回のシリコンとSiCでも接合を担当していただいています。
木本先生は、SiCの分野を代表する研究者です。10年ほど前、京都大学で博士号を取得したときの副査のお一人で、それ以来のお付き合いがあり、酸化ガリウムもずっと応援してくださっていました。今回の構造については、私はSiCの専門家ではないので、すでに誰かがやっているのではないかという不安がありました。そこで、この分野の第一人者である木本先生にアイディアを伝え、ご意見を伺いました。
返ってきたのは、「誰もやっていない。ありそうでなかった、興味深いデバイス構造だと思う」という言葉でした。これはやるべきだと確信した瞬間です。その後、デバイスの物理に関する技術顧問をお願いし、快諾いただきました。
※注:木本恒暢氏は京都大学の教授で、SiC研究を代表する研究者の一人です。重川氏とともに、ヘテロスタックスの技術顧問を務めています。
――逆に、そう伺うと気になります。30年前に着想が特許として書かれていたとなると、ベンチャーにとって生命線の知財は、どう固めておられるのでしょうか。
佐々木:我々が生み出したSABFET™とJGSD™は、30年前のアイディア特許とは異なる構造であり、2025年10月に基本特許を出願済みです。今後試作を進めるなかで、派生する構造や製法の特許も複数出てくる見込みです。一方、接合そのものの技術は、特許にはせず、ノウハウとして秘匿する方針です。
境目に耐圧を持たせる、という思い込みを外す
――直接接合そのものは、他のデバイスの量産にすでに使われている技術だと伺いました。それなら、難しさはどこに残るのでしょうか。
佐々木:直接接合そのものは、それほど難しくありません。量産装置も世の中にあります。難しいのは、貼り合わせた面にちゃんと電気を流すことです。そういう使い方がこれまでなかったので、真剣に検討されてこなかった分野でした。シリコンとSiCでも、酸化ガリウムとシリコンでも、界面(貼り合わせた二つの材料が接している面)に電気が流れることを最初に報告されたのが重川先生で、その縁もあって、いま接合を担当していただいています。
――そんなにきれいに貼り合わせられるものなのでしょうか。細かな傷や乱れのようなものは、できてしまわないのですか。
佐々木:現代の半導体プロセス装置やクリーンルームは極めて高度化しておりますので、傷や乱れがなく、ナノメートルレベルで位置合わせが可能な貼り合わせ技術が実現されています。ただし、その技術は非常に高コストなため、パワー半導体の製造技術には不向きです。
シリコンとSiCを組み合わせたデバイスを実現しようと考えたとき、まず思いつくのは、p型のシリコンとn型のSiCを接合し、境目そのものに高い電圧を受け止める役目を持たせる構造です。私も最初はその構造について検討しました。その場合は、境目の出来がそのまま耐圧に響いてしまうので、先ほどのハイエンド貼り合わせ接合技術が必要となり、コスト面で成立しません。
今回の構造では、そこをやめました。境目には、電気を通すことだけをさせる。そうした構造が成り立つとは、これまで誰も思いついていませんでした。「接合界面に耐圧を保持させなければならない」という思い込みを外し、その構造に行き着いたことが、大きなブレイクスルーでした。境目に完璧さを求めなくてよくなるので、接合のハードルは一気に下がり、低コストでの製造が可能になります。
――境目にきちんと電気を流すことについては、どのように見通しを立てたのでしょうか。
佐々木:シリコンとSiCの組み合わせで界面の電気抵抗を極限まで下げること自体は、物理的にも、机上で設計できます。木本先生にこの話を持っていったとき、私も不安で「界面に電気は流れるようになりますか」と聞いたのですが、「それはなるでしょう。不純物の濃度を上げればできます」という反応で、まったく心配されていませんでした。
難しいのは、むしろデバイスとして成立させる構造のほうだ、と。実は先生に相談した時点では構造が完成していませんでしたが、何度か議論を重ねるなかで、かたちになっていきました。
※注:半導体には、性質を変えるために、ごく微量の別の元素を狙って混ぜます。この元素は「不純物」と呼ばれますが、汚れのことではありません。濃度を高めるほど電気を運ぶ担い手が増え、電気が流れやすくなります。
まず、ダイオードが動くことを示す
――開発の現在地と、これからの道筋を教えてください。
佐々木:ダイオードでもトランジスタでも、シリコンとSiCの接合界面の抵抗を下げないことには先へ進めません。まずは共通の技術として、この抵抗を確実に下げられることを実証する段階に入っています。すでに基本技術は構築済みで、デバイスの動作実証に着手しています。
まず構造の単純なダイオード「JGSD™」を動かしてみせ、世に発表する。これを最初の目標にしています。次の資金調達に向けた、大きな節目でもあります。
トランジスタは、ダイオードの構造に要素を足したかたちです。ダイオードができれば、そこに技術を重ねて実証できる。ダイオードの次にトランジスタを実証し、また世に問う。ここからの1〜2年の目標です。その次が、損失の少なさをデバイスとして実証すること、そして信頼性試験をクリアすること。ここまでで、基本的な開発は完了となります。
――作る場所のことも伺いたいです。SiC単体や酸化ガリウム単体では専用の装置が必要だとおっしゃっていました。シリコンとSiCの貼り合わせは、いまある設備で作れるものなのでしょうか。量産の段階では、どこが作ることになりますか。
佐々木:製造工程の大部分は、シリコンのMOSFETと同じです。既存のシリコンのラインにウエハ貼り合わせ装置を導入すれば、製造を開始できます。SiCのような大規模な設備投資が要らないことが、コストの見立ての根拠です。
私たちは自社工場を持たないファブレスで、デバイスの設計、接合のプロセス技術、品質保証を自社で担い、シリコン側の工程はファウンドリに委託します。量産は国内もしくは台湾のファブと組む予定です。
当面のデバイスの動作実証は、国立研究開発法人情報通信研究機構との共同研究として着手しており、この秋からは同機構内に研究員を常駐させて、試作を本格化させています。
※注:MOSFETは、パワー半導体で広く使われているトランジスタの一種です。
――ファブレスで進めるうえでの関門は、どこにありますか。
佐々木:SABFET™とJGSD™の優位性を実証し、その将来性をファブに理解してもらうこと。そこがいちばんの関門です。
技術を理解してくれる人と組みたい
――これまで17年、事業会社のなかで研究開発をしてこられました。今回、ベンチャーキャピタルと向き合って、いかがでしたか。
佐々木:ノベルクリスタルテクノロジーで取締役を務めてきましたが、付き合いがあったのはほぼCVCだけでした。CVCは、自社の事業との長期的な連携を目的に投資をしているため、事業について意見をしてくることはほぼなく、短期的な成果も要求されません。一方、VCからは、ファンド満期までのリターンを求められるので、そのやりとりは、正直なところ身構えながら始まりました。
実際にVC各社とやりとりを始めて感じたのは、VCによるハンズオンの重要性です。我々のようなディープテックスタートアップは大体どこも同様かと思いますが、技術者が社長を担います。そうなると、技術面は問題ないけど、経営面は経験不足なケースが多い。その弱いところをVCは補完してくれるパートナーであるのだということを強く感じました。
出資に向けたデューデリジェンスの中でピッチデックや事業計画の作り方・効果的な見せ方を教えていただき、頭のなかにあった構想を、思い描いたとおりの形で人に見せられるようになりました。事業仮説の説得力も上がったと思います。
――これから組む投資家や事業パートナーには、どんな相手を求めておられますか。
佐々木:技術に軸足を置いていることを理解してくれるかどうかです。誠実に開発を進めていれば遅れることもある、だから前を向いて進んでほしい――そう言ってもらえるかどうか。IPOできなければだめだ、これだけのリターンがなければだめだと最初から言われるようなところとは、組みたくないという思いがありました。UntroDと組みたいと思ったのは、まさにそこを理解してくれたからです。
これから5年ほどは、技術をきちんと理解してくださる方と組んでいきたい。VCからの出資と併せて、将来のユーザーになる会社にも投資に加わっていただけるのが、理想的だと思っています。
――一緒に働く仲間としては、どんな方を迎えたいですか。
佐々木:研究者の仲間は周りにいるので、この話が広がれば集まってきてくれると思います。一方で、経営層のCXOにあたる人材、コーポレート機能を担う人材は、ゼロから探さなければいけません。具体的には三つです。パワー半導体と、それを使うパワーエレクトロニクスの分野をつなぐ技術営業の責任者。経理・財務を含めた内部統括の責任者。そして、基本的な技術のハードルを越えたあと、デバイスを製品として完成させる開発を任せられるCTO。UntroDの人材支援の機能をぜひ使わせていただいて、一緒に探していきたいと思っていますし、この記事を読んでくださった方からもアプローチしていただければと思います。
ガレージから、インフラへ
――ヘテロスタックスは「半導体デバイスの進化で、持続可能な未来を創る」を掲げておられます。この先に、どんな風景が見えていますか。
佐々木:AIデータセンターは、いま目の前で少しでも良くしたい場所なので、まずそこを足がかりにします。ただ今回のデバイスは、価格が最優先で性能はシリコンで足りるという分野を除けば、あらゆるところに広がっていく可能性があると考えています。
なかでも電動の乗り物は、採用のサイクルが長いぶん時間のかかる仕事になりますが、効率を上げることで、電気自動車や空飛ぶクルマがインフラとして使いやすいものになっていく。そこに貢献できたらと思います。
それに、異種接合という考え方は、パワー半導体だけで終わるものではなく、センサや高周波デバイスなど他のデバイスにも使えます。パワー半導体応用に目処がついた段階で、そういった他のデバイス構造の開発にも着手し、異種接合半導体デバイスメーカーとして事業領域を拡大していきます。
――この会社は、ご自宅から始まったそうですね。
佐々木:自宅でパソコン1台から始まったので、まさにガレージ創業です。ガレージからでも半導体デバイスメーカーが作れることを証明したいですね。
――最後に、これから仲間になる方、一緒に組む方へ。ひと言をお願いします。
佐々木:日本発で、世界の頂点を取りに行きましょう。
UntroDコメント
日本発で、この業界の世界トップに立つ会社をつくる
「ヘテロスタックスに投資しよう」と腹落ちした瞬間を、はっきり覚えています。佐々木さんと2人でピッチデックを作っていたときのことです。シリコンがあり、SiCがあり、しかしその先の材料ではもう頭打ちになる。だからパワー半導体のアーキテクチャそのものを変えなければいけない——そのための異種接合だ、という1枚のスライドができあがった瞬間に、これは間違いなくいける、と確信しました。
私自身、半導体業界にいたので、この業界が単一材料を置き換えることで進んできたことは知っていました。ダイヤモンドを使うスタートアップも出てきていて、資金も集まっている。ただ、材料を丸ごと変えるとなると、材料とデバイスの信頼性も、生産体制も一から作ることになります。社会実装までの時間軸が、ベンチャーキャピタルという有限の期間では支えきれないほど遠い。そこがずっと引っかかっていました。ヘテロスタックスは、すでに広く使われているシリコンとSiCを接合することで、従来のパワー半導体が性能やコストの観点で見合わなかった市場を置き換えます。しかもヘテロスタックスのパワー半導体なら、既存の生産ラインが使える。時間軸に対する答えが、ここにありました。
データセンターの消費電力の課題は、生成AIの普及で加速度的に大きくなっています。1年前はここまで話題になっていなかったのではないかと思うほどです。これを解決するには、データセンターのコア技術の側でブレイクスルーが起きるしかない。パワー半導体だけが解決策というわけではありませんが、そこがものすごく重要だという認識は、もともと持っていました。
ディープテックには、研究者がそのまま経営して行き詰まるという話がよくあります。佐々木さんは、そうはならない方だと思いました。技術に軸足がありながら、ノベルクリスタルテクノロジーでCTOとしてチームを率い、市場性や事業性を意識して研究開発をしてこられた。投資を担当したメンバーと一緒に食事をしたときも、全員が同じことを言っていました。佐々木さんの吸収力が素晴らしい、こちらが言ったことを一瞬で吸収して返してくる、と。
投資を決めたあとも、どうすればより早く社会実装できるかを一緒に磨き直しました。最速で最大のインパクトをつくるという視点が、私たちのファンドにとって最も重要だからです。研究開発は佐々木さんを中心に進みます。私たちの仕事は、事業面もコーポレートもファイナンスも含めたチームをどう育てるか。そして、私たちだけでは支えきれない規模の資金が要りますから、海外の投資家まで含めて次の資金調達をどう組み立てるか。ここが、リードVCとして担うところだと考えています。
パワー半導体業界の主要企業は欧米に集まり、業界のプレゼンスは圧倒的に海外にあります。だからこそ、日本からこの業界のトップに立つ会社を、佐々木さんとつくりたい。30年前にアイディアとして書かれながら、誰も形にできなかった組み合わせに、佐々木さんは新しい構造で道をひらいた。そこに最初の資本を入れる。ここがUntroDの言う「未踏」だと考えています。
(UntroD Capital Japan株式会社 取締役 リアルテックファンド パートナー 山家 創)
株式会社ヘテロスタックス
代表取締役CEO
2006年、長岡技術科学大学大学院修士課程を修了し、株式会社タムラ製作所に入社。酸化ガリウム(Ga₂O₃)の結晶成長とデバイス応用の研究に従事し、自作の結晶で単結晶酸化ガリウムダイオードの動作実証に世界で初めて成功。2016年、京都大学より博士号を取得。2018年に株式会社ノベルクリスタルテクノロジーへ転籍し、2019年より同社取締役CTO。特許出願80件以上、国際会議招待講演20件以上、国家プロジェクトの研究代表4件。内閣府のK Programでは20機関68名の研究チームを牽引した。2025年10月、株式会社ヘテロスタックスを設立し代表取締役CEOに就任。

聞き手|成田 真弥
UntroD Capital Japan株式会社 PR/ブランディング