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2026年4月14日

FHE(完全準同型暗号)の実用化によるプライバシーの解放で、社会に新たな価値を➖キオクシアからのカーブアウト「EmotionX」

大手半導体メーカーでの研究開発から立ち上がったEmotionX。取り組んでいるのは、世界的には研究が活発に進められている一方で、実用化にはなお高いハードルが残されているFHE(完全準同型暗号:以下FHE)という暗号文計算です。FHEは、データを暗号化したまま計算できる暗号技術でありこれからのデータセキュリティの基盤となり得るものですが、「単にセキュリティの話だと思われたくはありません」と、代表取締役CEOの吉水康人さん。どのような技術で、情報社会をどう変えていくのでしょう。わかりやすくお話いただきました。

EmotionX(エモーションエックス)株式会社
2025年6月設立。キオクシア株式会社の先端技術研究所で開発されてきたFHEを、より機動的かつ柔軟に社会実装することを目指し、同社からカーブアウトして設立したスタートアップ。代表取締役CEOの吉水康人氏と取締役CTOの大場義洋氏をコアメンバーに、FHE演算専用ハードウェアの開発を進め、安全なデータ利活用を支える次世代インフラの構築を目指している。
データを「守る」前提を、「見えない」前提に置き換える

吉水康人(以下、吉水):いま世の中では、個人情報や機密情報の保護にかなりのリソースを割いています。神経を使い、みなさん疲れているのではないでしょうか。わたしたちの目的は、そのような情報管理タスクから社会を解放することです。

これまでデータを守る必要があるのは、大きく分けて「保存するとき・渡すとき・通信するとき」の3つでした。それぞれにセキュリティ技術が必要で、さらにデータの場所がクラウド、エッジ、通信中と移るたびに対策が講じられていないと、情報が守られていることになりませんでした。加えて認可プロセス、標準化プロセスなどもあり、管理はかなりオーバータスクになっています。
わたしたちが研究するFHE(完全準同型暗号)は、データそのものが暗号化されているので、保護手段を考えなくても安全に取り扱えるものです。一方で、データを取り出そう、見よう、計算しようとするときに負荷が高く、処理に時間がかかるため、これまではあまり注目されなかったテクノロジーでもあります。つまり、社会をプライバシー保護の窮屈さから解放したいわたしたちにとっては、FHEでの暗号計算を高速化することが課題になります。

西村勇也(以下、西村):なるほど。いままではデータを動かすたびに、暗号化したり戻したりしていたけれど、暗号化したまま移動できるし、必要であれば戻せるということですね。それによってデータの流通がラクになるイメージでしょうか。

吉水:そうですね。2009年にFHEが発明されてから15年経ちましたが、ソフトウェアでの高速化は難しいということで、ここ5年で一気にハードウェアアクセラレーター(コンピュータの処理速度を向上する追加装置)による高速化がトレンドになりました。そのなかで、世界トップポジションの高速化技術をハードウェアに実装し、クラウドサービスを開始しようというわたしたちの研究は、今後、機密データや金融資産などを守っていくうえで、世界的にもかなり先駆けた取り組みです。データそのものが常に暗号化され、第三者からは「見えない」状態で扱えることを前提とした社会に移行したほうが、結果としてデータ活用は進むと考えています。こうした考え方は、金融や行政、企業間連携など、幅広い分野から期待を集めています。

西村:その技術は有難いですが、わたしたちが普段コンピュータを使うなかでは意識しないところです。現在のセキュリティ技術をとくに煩雑に感じ、改善したいと思っているのはどのような分野なのでしょう?

吉水:いま、 量子コンピュータの進展を背景に、いわゆるポスト量子暗号(PQC)への移行が、金融や公共分野を中心に検討されています。既存システムを前提とした改変は、対応コストや運用負荷が大きな課題となっています。しかし、データそのものがFHEになれば、個別の対策は不要になります。ですから全体構造を転換し、前提から設計しなおすという選択肢として期待されるのではないか、というのがここ半年で見えてきたところです。

なぜハードウェア? 市場の成熟も見据えて

西村:暗号化そのものではなく、暗号化されたデータの取り扱いだけを手がけるのでしょうか。

吉水:暗号化ソフトウェア自体は、既存の暗号ライブラリや汎用的なソフトウェア技術で対応することが可能であり、必要に応じて提供することも考えられます。一方で、暗号化されたデータ同士の計算では処理負荷が極めて高く、汎用的なコンピュータリソースだけでは実用的な性能を得ることが難しいのが現状です。 そのため、計算機側のアーキテクチャからアプローチし、暗号計算がスムーズに行える環境を整えることが、世界的にも注目されているトレンドであり、わたしたちの強みです。

西村:暗号化自体は、それほど競争優位性のある技術ではないのですね。

吉水:そのとおりです。暗号化自体は15年前からあり、暗号化する計算負荷はそれほど高いものではありません。

西村:おそらく一般のひとも、ぼく自身もあまりわかっていないところですが、なぜFHEの計算は、ハードウェアでの処理は速く、ソフトウェアでの処理は時間がかかるのか、少し伺えますか。

吉水:ソフトウェアでの処理は、既存のハードウェアに依存せざるを得ません。そのため、たとえばAIを汎用化するためには、人間の脳を模倣したニューラルネットワークによる計算に特化したハードウェアが必要で、実際に開発され売れています。同じようにFHEにも計算の特徴があり、対応するハードウェアが必要です。FHEは1個のビーズのようなデータがミミズのように長く連なっているため、計算機のまわりに「仮置き場」が必要です。わたしたちが考えているのは、平たく言えば、そのようなメモリ空間をもつ構造のハードウェアです。

西村:実際の事業としては、ハードウェアも販売されるのですか?

吉水: 現時点でもハードウェアとして提供すること自体は技術的に可能ですが、FHEの世界ではまだ市場が十分に成熟していません。対応するソフトウェアをつくろうにも、高度な専門知識が求められ、すぐに活用できるユーザーは限られてしまいます。また、わたしたちとしても、このハードウェアはまだ進化過程だと考えています。人間で言うなら幼稚園くらい。一定の完成度に達するまでは、実際の利用状況を見ながら改良を重ねていくことが重要であり、その段階で市場に広く提供することが望ましいと考えています。 そのため当面は、クラウドサービスとして提供する形をとり、利用者のフィードバックを得ながら市場を形成していく方針です。

西村:ハードウェアは自社で持っておき、クラウド上で貸し出すようなサービスからスタートするということでしょうか。

吉水:はい。Google CloudやAWS(Amazon Web Services)がやっているのが、ハードウェアを利用したリソースを貸して課金するというビジネスであり、そこからはじめるのがマネタイズとしては近道だと思っています。

半導体にとっての”デメリット“が次の進化になる!

西村:ところで、なぜカーブアウトで事業をはじめたのですか?

吉水:キオクシアの新規事業として探索してきた技術なので、本音を言うと社内子会社としてやっていきたかったのですが、我々の事業は、キオクシアに限らず広く半導体業界全体との展開も想定し得るため、大企業の看板を外したほうがやりやすいという見方もありました。

西村:事業案としてとどめておかず、「いま立ち上げなければ」と思われた背景、タイミングは何だったのでしょう?

吉水:日本であまり話題になることはありませんが、FHEは世界的にはトレンドで、R&D(研究開発)の分野ではかなり競争が激しくなっています。わたしたちも自分たちの成果を確かめるため、国際学会での論文発表など情報開示をしているのですが、そうすると似た目的をもつ競合がどんどん真似してきます。また、いろいろな産業ドメインのひとたちが「そろそろFHEだ」と目をつけはじめているなかで、この段階で先んじて事業化に踏み出すことが重要だと判断しました。また、研究を継続していくためには、事業を通じて技術開発を支える仕組みをつくる必要がありました。
じつはキオクシアからのメンバーは、わたしを含めてたった2人です。その2人でほぼ進めてきました。ただ、ソフトウェアのレイヤーも完結する必要があり、そのパートナーとしているのが、2016年設立の国内スタートアップ「EAGRYS(イーグリス)」です。

西村:企業の中で「いまは新規事業のタイミングではない」となったとき、一般的には「じゃあ、もういいか」となりそうです。そこで諦めずに、リスクをとってはじめられたのですね。

吉水:FHEに注目した理由として、先ほどお話したような社会情勢のほかにもうひとつ、半導体業界から見たおもしろさもあったんです。
暗号化による計算負荷は、データサイエンスの業界からするとデメリットですが、つねに進化のロードマップを描く半導体業界に身を置いていた自分からすると、「燃える」ことなんです。現状の性能をもって「無理」だと思われていたことが、半導体進化によって実現された、というのを何度も見てきています。だからこそ敢えて、とてつもなく重たいアルゴリズムを選択したのです。近年、半導体業界では次なる価値創出の道筋が見えにくくなっていると感じています。今後何に使われていくのか、これ以上AIを進化させていくことが社会にとって本当に望ましいのか、といった疑問が語られるなかで、わたしたちは「すべてのデータを暗号化した社会を前提にすれば、安心してデータを使える世界がつくれる。そのためには、まだ半導体の進化が必要なんだ」というメッセージが出せる。自分の畑である半導体業界に対して、「次はこれを作っていきますよ」と旗を振っているのです。国内で閉じることを意図しているわけではありませんが、「日本発の技術を、未来のために育てていく」という考えのもと、官民の投資が集まり、半導体分野が産業として活性化していくことを後押ししたいという思いもあります。

データ保護の常識を変える「白黒反転」の発想

西村:この技術をどう伝えたら一般のひとにもわかりやすいだろうと考えるのですが……。たとえばiphoneをロックしない状態で持ち歩くと、落として誰かに拾われたら怖いですよね。でも会社の機密情報は、いまは鍵をかけたままでは持ち歩けず、会社から出るときに鍵のかかる箱に入れて、着いた先でまた別の箱に入れて……というすごく面倒くさいことをしている。FHEによって、中身を見せないまま使えるようになる、と理解してよいのでしょうか。

吉水:そうですね。FHEの一番の特徴は、データを暗号化したまま計算や処理ができることです。つまり、誰かがデータを扱っていても、その中身は最後まで見えません。保持しているときだけでなく、共有したり、処理したりするときも同じです。

西村:ある仮想的な場を設けて、「入口と出口は守っておくので、この中であれば自由にやりとりしても安全ですよ」といったイメージを持つ人もいそうですが、FHEの場合はそうした考え方とは違うのでしょうか?

吉水:ええ、少し違います。FHEの場合、「安全な場」を用意するという発想ではありません。
データそのものが暗号化されたままなので、どこにあっても、誰が扱っても中身は見えない状態が前提になります。 ですから、入口や出口を厳密に管理しなくても、データをやりとりしたり、処理したりできる。「中に入ったら安全」という考え方ではなく、最初から最後まで見えないというのがFHEの特徴です。

西村:データをずっと安全にやりとりできれば、ハッキングなどの「横槍」を入れてくるひとたちを退場させることもできますね。そういうことにデータや通信を使うのではなく、社会価値があるところに使えるようになるという点でも意義がありますね。

吉水:そうなんです。暗号化すればデータを盗んでも使えないので、ハッキングの対象外になると思います。盗んでも見えなければ、箱をとっても仕方がない。

西村:まさにアサヒビールに起きたようなことがないように守っていくのですね。とはいえ、わたしたちからすると、事業内容はかなりマニアックに思えます。業界ではそうではないのですか?

吉水:専門的に見えるのは事実だと思いますし、業界の中でもFHEはまだ十分に知られていません。いま主流なのは、既存のセキュリティをより強化する発想ですが、FHEがもたらすのはそれとは別の変化です。データを見せずに計算することが前提になることで、データ社会の設計そのものが変わる。そこに可能性があると考えています。

西村:個人的な経験としても、セキュリティの問題で添付ファイルひとつ送ることができず、「郵送ならよい」と言われ、何をやっているんだろうと思うことがあります。

吉水:過度な情報管理によってスピードが遅くなる場合がありますよね。最近わたしは「白と黒」に例えて説明しています。いまの情報管理は、データが最初から白く「見えている」前提なので、見えてはいけないものを必死で隠そうとする。だから、送れない、持ち出せない、使えない、といった制約が増えていきます。それに対してFHEは、最初からデータが「黒い」、つまり「中身が見えない状態」を前提にします。その黒い空間の中で、必要な結果や意味だけを白く浮かび上がらせる。そう考えたほうが、データはずっと扱いやすくなると思うんです。いまAIが流行っていますが、いくらAIが進化しても、投げ込む情報のクオリティが上がらなければ現代社会の進化はない。ですから、一次情報をいかに安心安全に使えるかが大事であり、FHEがその選択肢の一つだと思っています。

陰に隠れて見えない価値に光を当てたい

西村:昨今、スピードや派手さを優先し、安心安全をあまり気にしない個人やスタートアップが目立つ一方で、リスクや責任をきちんと考える人や企業ほど、かえって動きにくくなっているようにも感じます。こうした状況を、吉水さんはどう見ていますか。

吉水:わたしはそれを少しくだけた言い方ですが「陰キャを救う」と表現しています。いまは、わかりやすくて言葉巧みな「陽キャ」が前に出る傾向ですが、すごくいいものをもっているひとや企業なのに、うまく表現できないために光が当たらない、広がらない社会はすごくもったいない。

西村:まさに日本の大手企業がそうであるように思えます。いままでしっかりやってきたひとたちが両手を縛られているような状態から解放され、報われる社会になるのなら、とてもいいですね。この技術を最初に理解してほしいのはどんなひとたちですか?

吉水:データ活用に慎重にならざるを得ない人たちですね。本来は活用できるはずの資産を、データを守るために閉じてしまうのは、社会のポテンシャルとしてもったいないと思います。たとえば個人情報は一定の規模で集まってこそ意味があるのに、扱う負担が大きいためにそもそも集めないということもあります。企業間のコンソーシアムでも、リスクを意識するあまり、貴重な議論の内容が残されないということもあります。それでは相乗効果が生まれにくいですよね。データが暗号化して見えなくなれば、機会創出になるのではないかと考えます。
わたしたちは特定の領域を目指しているわけではなく、社会インフラに溶け込みたいと思っています。そのために、キャピタリストに限らず、時間軸を共有し、一緒に階段を登っていけるステークホルダーとのパートナーシップを大切にしています。「いつローンチするのか」だけではなく、「どんな社会をつくるのか」をともに考えられる関係でありたいですね。

西村:そのためにも伝え方が大事ですね。FHEは、普通はやわらかくしないとさわれない・動かせないものを、硬いまま形を変えて持ち運べるものなのかなと思いました。これまでのデータが豆腐なら、高野豆腐のようなものでしょうか?

吉水:なるほど。うちのロゴは魚のように見えるかもしれませんが、じつは2つの混じり合わない丸同士がキュッとくっついたもの、やわらかいまま固まっているというものなんです。高野豆腐同士がくっついたものかもしれないですね(笑)。

UntroDコメント
AIの発展、企業間のつながり……セキュアな状態が生む価値に期待

EmotionXの技術は、はじめはぼくもわからないことが多かったのですが、吉水さんのお話を何度も伺い、基本的にはシンプルに、データをつなぐ・守るところの暗号計算だと理解しました。普段、ぼくたちはChatGPTなどにどんどん情報を渡し、「なんとなく大丈夫だろう」とプライベートな話さえ投げていますが、実際はかなり危険です。もしそれが非常にセキュアな状態でできるようになれば、AI本来のよさもさらに得られるかもしれません。あるいは企業に眠っている秘匿性の高いデータが、別の 企業とつながることで新しい価値を生むかもしれない。そういったところにこの技術の可能性を感じています。
吉水さんは、ちょっと怖そうな第一印象に反して、ディープテックの開発者にありがちな「ぼくらの技術はすごいから、わかって当たり前だろう」といったふうではなく、どう言ったら伝わるかと工夫しながら話してくださったのも好印象でした。
(UntroD Capital Japan株式会社 グロースマネージャー 山家 創)

聞き手

西村勇哉
NPO法人ミラツク代表理事、株式会社エッセンス 代表取締役 国立研究開発法人理化学研究所未来戦略室 イノベーションデザイナー、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 特任准教授。2011年のミラツク設立以降、大手企業の事業創出に未来構想の設計、独自メディア運営など、アカデミックな視点と圧倒的な行動力でプロジェクトの社会実装を牽引している。

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