製品ではなく、産業をつくる。人機一体が可能にする、苦役から解放された肉体労働
株式会社人機一体は「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」というミッションを掲げ、ロボット工学技術を用いて社会課題解決に挑む企業である。そのために同社は、現場への貢献という切実かつミクロな次元と、新産業の創出というマクロな次元の両方からソリューションを提供している。すなわち一方では、人間の操作する人型重機を開発し、危険で過酷な労働から現場を救っている。もう一方では、技術によって夢をみせ、その夢の追求に多くの人を巻きこめる場も運営。彼らは、単に人の役に立つロボットをつくるだけではない。むしろ、ロボットを結節点に集まった人々が指数関数的に価値を生み出していく産業すら創出する二正面戦略によって、インパクトを生み出すのである。
テクノロジーが届かなかった危険な労働現場
現代社会においても、土木、建築、インフラ保守、災害対応といった多くの現場では、人間が身体的な危険にさらされながら過酷な労働、すなわち苦役に従事している。国内だけでも年間約5兆円規模にのぼるインフラメンテナンス市場では、高所での作業、重量物の吊り上げ、有害物質が漂う環境下での作業など、依然として人力に頼らざるを得ない危険な業務が数多く存在する。
こうした課題に対し、既存の技術では十分な解決策を提供できていなかった。例えば、工場などで導入される産業用ロボットは、位置決めや溶接といった精密な定型作業の自動化は得意とするが、状況が常に変化する非定型な現場作業には対応できない。 一方で、油圧ショベルなどの建設機械は、高出力を発揮できるものの、力や軌道の細やかなコントロールを苦手とし、人との協調作業も困難である。
災害現場のような極限環境では、既存のロボット技術は期待されたほどの活躍ができていなかった。これは、有用な技術が存在しなかったのではなく、実装された技術が現場の要求に応えきれなかったことを意味する。というのも、従来の産業用ロボットは、特定の状況において、特定の単純作業を繰り返すというモデルに立脚していた。ところが現場作業では、ロボットの助けを必要とする極限環境ほど、ロボットには対応できない想定外の要求が頻発する。そこで、真に社会の役に立つロボット技術を社会実装するためには、従来の自動化という発想すら超えた新しい次元でのアプローチが求められていると人機一体は考えたのだ。
解決策は“自動化”ではなく“人の強化”
人機一体のロボットは、極限環境下での複雑な肉体労働の苦役や、それにともなう作業員育成コストや人手不足という問題に対し、現場という最前線において、正面から解決策を提示する。
その設計思想として、同社代表の金岡博士氏は「マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)」を提唱している。これは、プログラムで自動的に動くのではなく、操作者の身体と直結した感覚でロボットを操ることで、人間の能力を拡張する技術体系を指す。すなわち、人の手を離れて特定の単純作業を繰り返すのではなく、人の手を強くしてさまざまな作業を臨機応変に行えるようにするわけだ。
工学的には、ロボットの位置や姿勢が操作者に力覚としてフィードバックされる「パワー増幅バイラテラル制御技術」と、トルクセンサの活用により高出力と高い耐衝撃性を両立する「力制御・トルク制御技術」を組み合わせたものである。 この技術体系により、プログラムによる自動化ではなく、操作者が自らの身体の延長のように直感的にロボットを操ることが可能になる。
この技術を社会実装した具体的な成果が、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)および日本信号株式会社と共同開発した空間重作業人機「零式人機 ver.2.0」である。 鉄道のインフラメンテナンスにおける高所作業の課題を解決するため、概念実証(PoC)を経て製品化され、2024年7月からはJR西日本の営業線で実際に運用が開始されている。 地上のコックピットからの遠隔操作によって、作業員は危険な高所に登ることなく、安全な場所から精密な作業を完遂できるため、高所作業からの苦役解消に直結する。
新産業をつくるという社会実装
人機一体は、現場の負担という喫緊の課題に特効薬を提供するだけでなく、新産業の創出という、よりマクロな次元からもソリューションを提示している。その屋台骨が、「人機プラットフォーム」という独自の事業構想だ。これは産業そのものを新しくつくるための「場づくり」である。
これは、同社が強みとする研究開発に特化し、具体的な活用方法や有用性を実証した知的財産やノウハウを、各分野のパートナー企業にライセンス供与する共創型のビジネスモデルである。 プラットフォームは、試作機開発と実証試験を行う「研究開発フェイズ」、パートナーであるメーカーが試作機をベースに「製品化」するフェイズ、そしてエンドユーザー企業が製品を活用して現場の課題を解決する「社会実装フェイズ」の三段階で構成される。
例えば、前述の「零式人機 ver.2.0」は、空間重作業人機プラットフォーム(PF06)というテーマの一環であり、JR西日本(実用化企業)と日本信号(製品化企業)との協業によって社会実装に至った。 同様に、油圧シリンダに匹敵するパワーウェイトレシオを持つ電動シリンダを開発する「人機並進駆動ユニット(PF03)」や、狭所での重量物運搬を目指す「人機カート(PF08)」など、複数のプロジェクトが具体的な企業との連携により進行している。
このモデルにより、同社は製造や販売を直接手がけることなく、自社のコア技術をスピーディーかつ広範囲に社会実装することが可能となる。パートナー企業は、開発の初期投資やリスクを抑えながら、自社の強みを活かして革新的な製品を市場に投入し、独占的な販売権などの事業優位性を確保できる。 人機プラットフォームは、様々な企業が持つ技術や知見を結節させ、新たなロボット産業を創出するためのエコシステムとして機能している。
人の代わりから、人の相棒へ
人機一体の提供するソリューションは、人間の労働者が危険な苦役から解放される未来への明確な道筋を示している。同社のロボットは、人間を代替するのではなく、人間の能力を拡張するパートナーとして機能する。遠隔操作によって過酷な現場作業を遂行できる人型重機は、労働の安全性や効率を飛躍的に向上させ、社会インフラの維持や災害復旧といった喫緊の課題に対する有効な解決策となる。さらに同社は、技術が爆発的に社会実装されるきっかけとなる場をも運営し、より大きな規模でのダイナミックなソリューションも提供している。人機一体のインパクトは、人が機械に追いやられる社会ではなく、人が機械とともに創造性を発揮できる社会へとつながっている。