植物の「製造」で食料危機も環境問題も解決。プランテックスの「植物工場2.0」で農業も設計する時代へ
世界の人口増加を背景に、食料の安定供給と環境負荷の軽減という、トレードオフにみえる課題の解決が急務となっている。従来の農業のあり方が問われるなか、製造業の生産管理技術を応用して植物の栽培プロセスを再定義し、食料問題の解決に挑むスタートアップがある。株式会社プランテックスだ。同社は、完全密閉型の植物工場に独自のテクノロジーを導入することで、資源効率を極限まで高め、圧倒的な生産性を実現する。それは「植物工場2.0」と名付けられた、次世代の農業生産モデルだ。本稿では、同社の技術と事業モデルが、いかにして地球規模の社会課題を解決に導くのか、その論理と道筋を詳らかにする。
食料問題と環境問題のジレンマ
国連の推計によれば、世界の人口は2050年に97億人に達すると予測されている。この人口増加は、必然的に食料需要の増大を招き、食料不足の深刻化が懸念される。一方で、食料増産を目指す従来の農法は、地球環境に大きな負荷をかけてきた。農地の拡大は森林破壊につながり、大量の農業用水は水資源を逼迫させる。また、化学肥料や農薬の使用は土壌や水質の汚染を引き起こす一因ともなってきた。
このように、食料増産を図れば環境に負荷がかかり、環境を保護しようとすれば食料生産が制約を受けるというジレンマは、人類の未来にとって喫緊の課題である。この複雑に絡みあった課題を解決するためには、従来の延長線上にはない、まったく新しい農業の形を創り出す「農業革命」が不可欠となる。
農業に製造業の論理で挑む
プランテックスが提供するソリューションは、この農業革命の中核を担う「人工光型植物工場」である。しかし、そのアプローチは従来の植物工場とは一線を画す。同社の原点は、製造業向けの生産工程改革コンサルティングを手掛けていた株式会社インクスにある。創業者である山田耕資CEOをはじめ、創業メンバーの多くが同社出身のエンジニアだ。彼らは、植物工場を「生物を育てる場所」としてではなく、「工業製品を製造する工場」として捉え直し、インクスで培った「プロセス・テクノロジー」を応用した。
この「プロセス・テクノロジー」とは、熟練工の暗黙知に頼っていた作業工程を徹底的に分析・細分化し、判断基準を明文化・システム化することで、生産性と品質を飛躍的に向上させる手法である。プランテックスは、これを植物の栽培に応用。植物の成長メカニズムを解析して20種類のパラメータを設定し、それらを数式によって連鎖させた「数式チェーン」を構築した。光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件を、自然環境の模倣ではなく、植物の生育にとって理想的な状態をゼロベースで作り出し、完全に制御する。これにより、職人芸や実践知に頼ることの多かった栽培技術を、科学的かつ論理的なプロセスへと転換させたのである。
高い生産性と付加価値の両立
この独自のコンセプトは「植物工場2.0」と名付けられ、従来の植物工場が目指したコスト削減競争とは異なる次元、すなわち圧倒的な生産性の高さを追求する。実際に、同社のコンサルティングは既存の植物工場の収穫量を約4ヶ月で倍増させる実績を持つ。2022年には大手スーパーマーケットとの協働で、本格的な生産施設「THE TERRABASE 土浦」を稼働開始。ここでは使用電力を再生可能エネルギーで賄い、露地栽培に比べてレタス1個あたりの使用水を12リットルも削減するなど、高い環境性能も両立させている。
プランテックスの強みは、この生産性だけにとどまらない。栽培環境を精密に制御できるため、特定の栄養成分を強化した作物や、風味をおいしく調整した作物などの生産が可能で、高い付加価値まで期待できる。好きな野菜をおいしく食べながら、どんどん健康になっていく。人間にも環境にもストレスフリーなまま、どんどんよくなっていく。そんな世界をプランテックスは実現する。
さらには、気候や風土の問題で国内での栽培が難しいとされてきた薬草などの生産も視野に入れる。完全に密閉された空間は、宇宙船内や将来の火星基地での食料生産といった、地球外での応用可能性も秘めている。
喫緊の問題には、遠回りしないソリューションを
プランテックスの事業は、食料不足や環境保護という社会課題に対し、高効率・高付加価値の食料生産という直接的な解決策を提示する。同時に、その生産プロセスは、水・肥料などの資源を循環利用し、外部への環境ダメージを殆ど出さないという特徴をもつ。これは、食料増産と環境負荷・資源消費の軽減を両立させることを意味し、まさに食料問題と環境問題のジレンマを解消することにつながる。
同社の植物工場兼研究施設の名称「PLANTORY」は、新たな植物工場の概念そのものを意味する。製造業の論理で農業を再定義し、食料生産のあり方に革新をもたらす。プランテックスが描く「植物工場2.0」の普及というロードマップは、人類が直面する根源的な課題を解決に導く、きわめて現実的かつ強力な処方箋となるだろう。