世界を変えるアントレプレナーたちの物語を伝えていきたい – メンバーインタビュー:村下千尋
創立111年目を迎える株式会社荏原製作所(以下:荏原)は、長期ビジョン「E-Vision 2030」で、今後の世界の展望をもとに社会課題を認識し、グローバルなマーケットインの視点で新規事業を創出し、持続可能な社会に貢献していくことを目指しています。また、競争し挑戦する企業風土を醸成するため、人材の派遣を通じて、将来的に荏原の次世代を担う人材の育成に注力しています。
その一環で、2020年7月にリアルテックホールディングス初の海外進出となるグローバルファンド1号投資事業組合(以下:グローバルファンド)に出資し、東南アジアのディープテックベンチャーとの事業連携を目指す取り組みを開始しました。また、スタートアップ企業への派遣プログラム等を通じて、荏原が有する技術を活用した世界の課題解決に向けた新規事業の創出や、次世代人材の育成強化を目的として、2021年1月より、マーケティング統括部 次世代事業開発推進部の小坂翔が、フルタイム派遣プログラムに参加しています。
今回は、荏原からの二人目の出向者であり、2022年5月からリアルテックに参画している村下千尋に話を伺いました。
モノづくりの情熱とリアリティを身近で感じたい。
まずはリアルテックに出向した経緯を教えて下さい。
恥ずかしながら、荏原の社内でリアルテックへの出向者を募集する公募の記事を見た最初は、英語力もファイナンスの知見もない自分には関係ない話だと思いました。
転機になったのは、荏原からリアルテックへの出向者第一号である小坂さんから公募記事の拡散を頼まれたことです。私が広報部門にいたので、その拡散力を見込んで頼んでくれたようなのですが、情報の拡散のために小坂さんのインタビュー記事やリアルテックのホームページを読んでいるうちに「もし私がここで働くとしたら、何ができるんだろう?東南アジアのスタートアップと仕事をしたらどんな世界が見えるんだろう?」と自分の中で好奇心が大きく育ち、その勢いのまま飛び込んだというのが実情です。小坂さんもまさか私自身が応募するとは思っていなかったようで驚かれていましたが、私のノリと勢いを受け止めて、出向の機会を与えてくれたリアルテックに感謝しています。
そうだったのですね!衝動的とはいえ、決断するまでに何かしら思いや葛藤は無かったのですか?
私は新卒で荏原に入社して今年で7年目になります。IR・PR部門で株主や投資家向けの開示を行う業務は非常にやり甲斐もありますが、自分が希望した日本のメーカーに入社したのに、モノづくりの現場から離れた羽田のオフィスのみで仕事をしていることには若干の違和感を感じていました。
また荏原で新規事業創出プロジェクトというものがあり、私はそれに参加していました。受講者は最後に自分が考えた新規事業を発表するのですが、そこで思い出したくないほど凄まじい大コケをしました。それが非常に悔しかったのと同時に、力不足を実感してビジネスパーソンとして危機感を覚えました。「もっとモノづくりの現場に近い場所でその熱量を肌で感じたい。自分に足りないものを知って、人間としても成長したい。」そんな思いが重なっていた時期に、前述の小坂さんが作ってくれたきっかけが引き金となって出向に応募しました。
実際リアルテックに入ってみていかがですか?どんな仕事をされていますか?
入ってしばらくは自分の成長ばかりに目を向けている部分が多かったのですが、今はもう少し興味・関心の幅が広がって、東南アジアの発展や、それらの日本への接続という外側に向けたものに変化してきています。やりたいこともどんどん増えていますね。
仕事は色々やらせて頂いていますが、PR的な仕事が多いですね。荏原ではIR・PR部門で6年間勤めていて、B2Bのモノづくりの見せ方の難しさや苦労を経験していました。VCでのPRは自社だけでなく投資先企業の支援も業務に含まれます。そういった意味で、モノづくりをしているベンチャーのPR面での支援は経験を生かせると思っています。
具体的には、まず私自身が創業者の思いや現場を見たかったこともあり、入社してすぐに2週間ほどシンガポールを訪問し、投資先ベンチャーを回って創業者のインタビュー動画を撮影しました。それを編集して日本語字幕を入れた4分ほどの紹介動画を作り、ファンドに出資頂いている組合員企業へ毎週1社ずつメールマガジンとして配信しています。これがやり始めたら大変でして。。。でもこの動画が彼らのことを日本で紹介するときの第一歩目の重要なコンテンツになっています。一部の動画はYouTubeでも公開しているので是非ともご覧頂きたいです。
今やっている仕事以外に、リアルテックで取り組みたい仕事やプロジェクトはありますか。
もともと食べることが好きなので、リアルテック入社前から培養肉などのフードテック系の技術に興味がありました。しかし世界では人口増加による水不足やタンパク質クライシスが加速していて、フードロスという言葉を日常的に耳にするようになっており、もはや「おいしいものを好きな時に好きなだけ食べる」という生活が危機に瀕していると感じています。持続可能な食料生産やサプライチェーンの整備は世界中で喫緊の課題です。
リアルテックへ入社して最初の仕事として、実際に東南アジアを訪れて投資先企業のインタビューやピッチイベントの聴講をする中で、これらの深刻な課題に対して現地のベンチャー創業者たちが本気で取り組んでいる事に感銘を受けました。彼らの生み出す技術やビジネスはさまざまで、植物性の代替肉や牛乳の製造から食品包装のコンポスト化まで幅広く、非常にユニークです。これらの課題は東南アジアだけでなく世界的な食料問題を解決するポテンシャルがあると感じています。
出向期間中にフードテック系のベンチャーのフォローアップや日本進出を1件でも多く支援していきたいです。
リアルテックの仲間とは、どのような働き方をしたいですか。
リアルテックで働くようになって、まず個人の裁量がとても大きいことに驚きました。リアルテックではひとりひとりの思いや意見の持つ影響力がとても大きく、責任もその分重大です。そこに面白さを感じていますが、一方で自分は2年間で何を成し遂げられるのか不安になる時もあります。
リアルテックの仲間を見ていると、とにかく「社会課題を解決したい」という大きな熱量を常に感じます。そのためにどんな努力も惜しまない姿勢がこの組織を力強く前進する力を生み出していて、その企業文化は本当に素晴らしいものだと感じていますし、その影響を存分に受けていきたいです。
そうした彼らの情熱を身近に感じながら、私自身も力強く前に進めるようになって、別の誰かに情熱を伝搬できるような人間になりたいですね。
誰かを救える物語は実体験からしか生まれない。
ご自身の人生の中で今の仕事に繋がる経験や想いがあれば教えてください。
昔から絵本や小説が好きな子どもで、自分で物語を書くことも好きでした。それが高じて中学生のころに演劇部に入ったのですが、あがり症だったので役者はあまり上手くならず、大学生のころに脚本を書き始めてからは完全にそちらにハマっていました。社会人になり劇団を立ち上げた後も脚本を書いたり小説を書くことが趣味なのは変わらず、今でも書き物はどんなに忙しくてもやめられないライフワークの一つです。
今まで多くの小説から生きていくうえで大切な示唆を与えてもらったし、自分もそんな小説が書けたら良いなと思っていましたが、結局のところ物語はフィクションであり、現実の世界に与えられる影響には限界があると学生の頃は感じていました。
しかしPRやIRという仕事を通し、企業ストーリーをきちんと伝えることが社内外に大きな影響を及ぼす実感を得ることができました。投資家との対話を通じてESG指数への選定が進んだり、制作に携わった統合報告書が高い評価を得たことはとても良い経験になりました。今リアルテックで取り組んでいる動画やメルマガの制作も物語作りのプロセスそのものですし、これらの経験をベンチャーのPR支援に生かしていきたいです。
物語が好きな事とそれが今の仕事に活かせる事は分かったのですが、本当に物語が好きだったら小説家を目指すのが王道な気もしますが。。。
確かに小学生の頃までは本気でプロの小説家になりたかったのですが、それを母親に言ったら、「小説家になるのはいいと思うけど、手塚治虫はストレートに漫画家を目指したわけではなくて、医者も目指しながら医師免許を取ったりして、全く別の分野の経験から知見を得て小説を書くから深みが増して面白いんだよ。」みたいな話をされて妙に納得してしまいまして、その時点でなぜか私は「企業で働きながら小説を書こう」と決めていました。
小説とかって距離や時代も関係なく人の心に届くんですよね。そして誰かが救われることもあるし、私も何度も救われました。だからいつか私も、誰かが救われるような物語を書きたいと思って。実社会の中で色々な経験をして、ビジネスパーソンとしても人としても成長しないと、人を救えるような物語なんて書けないと思っているので、リアルテックや投資先ベンチャーの皆様のように、確かな実力と情熱を持って社会の役に立とうとしている人たちと一緒に働く時間は、自分の目標に近づけている感覚があります。
リアルテックでの経験を出向元や今後の人生でどう活かしたいですか。
創業者やリアルテックの仲間と話していると、自分は心の底からビジネスパーソンに向いていないことを感じます。ビジネスとしてお金を稼ぐ仕組みを学ぶことも面白いとは思うのですが、私が一番興味を惹かれるのは、例えば創業者がどんな原体験をもっていて、それがどんな社会課題を解決したいかという思いにつながったかという物語であり、人間の感情の動きです。
でもそれは会社で働くことが嫌だとか向いていないという事ではなく、この視点からできることを模索するいいチャンスだと思っています。いままでは物語づくりという特技をPRの側面でしか生かすことができませんでしたが、この妄想力ともいうべきものを、例えばもっと事業計画のブラッシュアップに使うことができるのではないかと思っています。
より現実的な妄想と言っていいのかわかりませんが、そういう力をつけることで、今まで小説や舞台の脚本を通じた絵空事しか描けなかったものから進化させて、荏原に戻った時のキャリアや、今後の人生でも絶対に続けていくであろう創作に生かしていうことが一番の理想です。
今後の仕事や人生で成し遂げたい事はありますか。
ここまで創作についてどちらかというとキラキラした側面の話ばかりしていましたが、実際のところ私は子どもの頃からネガティブな性格で人と関わることも苦手だったので、現実逃避として読書に逃げていた側面もありました。嫌なことがあっても読書を通じてリフレッシュできたし、友だちとの交流が少ない私に人間としての考え方や倫理を教えてくれた物語という存在は、人生で無くてはならないものでした。
そうやって自分が物語に救われたのと同じように、小説でもビジネスでも、手段はなんでもいいのですが、自分が携わって創り上げたものがきっかけとなって、どこかの誰かが少しでも生きることが楽になったら、それ以上に嬉しいことはありません。
ただリアルテックに出向してから、本気で世界を変えようとしているアントレプレナーたちを目の当たりにするうちに、彼らの情熱と魅力の溢れる物語を多くの人に知ってもらいたいという気持ちが高まっています。
そして今、小説を書くために仕事をしているんじゃなくて、働きながら物語を作っているんだなと実感しています。
ライフとワークが統合してきている感じですね。素敵です!
最後に、これを読んで頂く方に伝えたいメッセージなどあればお願いします。
この2年間は人生の中で大きな影響を及ぼす期間になる予感がしています。荏原に入社した時、まさか自分がこんなにダイレクトに海外での仕事に携わるようになると思わなかったし、準備もしていませんでした。
完全に衝動的に掴んだチャンスをどう生かせるか不安もありますが、毎日とても新鮮でワクワクしています。リアルテックでたくさんのことを教えてもらいながら、自分でも何か残せるようにしていきたいです!
リアルテックのビジョンに共感し、募集ポジションにご関心ある方からの応募をお待ちしております。また、リアルテックファンド投資先のスタートアップで働くことに関心ある方もお気軽にお問い合わせください。
▶募集ポジションの詳細はこちら: https://www.realtech.holdings/recruit
■プロフィール
村下 千尋(むらした・ちひろ)
グロース・マネージャー
日本大学文理学部を卒業後、2016年に株式会社荏原製作所に入社し、IR・広報に携わる。
新規事業の発掘から事業立上げまでの一貫したプロセスを担う人材育成を目的としたプログラムにより、2022年にリアルテックグローバルファンドに参画。
リアルテックグローバルファンドでスタートアップ企業のPR支援等の業務を通じて新規事業の種を発掘し、東南アジアのスタートアップと荏原製作所をはじめとした日本企業との連携を促進。